嵯峨大念仏狂言の演目は「カタモン」と「ヤワラカモン」の二種類に大別されます。
カタモンは『土蜘蛛』や『船弁慶』のような能系統の演目で、ヤワラカモンは 『釈迦如来』や『愛宕詣』のようなコミカルな要素を持った演目です。
公演 にあたっては、このカタモンとヤワラカモンを交互に配します。
カタモンには『道成寺』『夜討曽我』『羅生門』など、能の『斬合物』 『鬼女物』『鬼退治物』と呼ばれる派手なたちまわりや
勧善懲悪をテーマとした ものと共通の演目が多くあります。
また、春季公演では最初の演目を『花盗人』、 最後を『餓鬼角力』とするのが定番となっています。
舞台には正面奥の向かって右側から囃し方の鉦と締太鼓の奏者、続いて1~2名 の横笛奏者、そして数名の「後見」が並びます。
「後見」は能にも見られますが、 舞台上で役者の着替えを手伝ったり小道具の世話をしたりします。
また、役者に 突然の事故があった場合に、面をつけずにその代役を務めることもあります。
囃子は鉦(カン)と太鼓(デン)による「カン・デン・休み・デン・カン・デン・ デン・休み」と
「カン・デン・デン・デン・カン・デン・デン・休み」という二 種類のリズムが基本となり、
ほかに妖鬼の類の登場や立ち回りの際に用いられる 「ハヤガネ」と呼ばれる鉦の連打があります。
横笛は九孔(通常は七孔か六孔) を持つ大変に珍しいものです。
登場人物:頼光・土蜘蛛・綱・保昌・太刀持
頼光は気分が勝れず憂うつな面持ちで家来たち(綱、保昌)と酒宴を開くが、その場で床についてしまう。
家来たちが控えの間に去った後、土蜘蛛が現れ太刀廻りとなるが、蜘蛛は逃げ去る。
家来たちは騒ぎを聞いて駆けつけ、頼光は彼らに蜘蛛退治を命ずる。
綱と保昌は松明を持ち、屋敷内を探る。 まず綱が土蜘蛛とでくわし太刀廻りとなる。
結局土蜘蛛は逃げ出し、綱は後を追う。続いて保昌が土蜘蛛に遭遇し やはり太刀廻りとなる。
土蜘蛛は逃げようとするがそこに現れた綱と保昌に挟み撃ちにされ激しい太刀廻りのすえ 首を取られる。
勝利した綱と保昌は意気揚々と引き上げてゆく。
登場人物:頼光・綱・保昌・太刀持・鬼・通行人
羅生門に棲みつく鬼が、通行人を襲って次々と喰ってしまっていた。この話を聞いた頼光と家来の 綱、
保昌は事の真偽について議論する。保昌は鬼を退治しようと主張し、綱はそのような鬼はいない と言い張る。
議論が白熱し、綱と保昌は太刀を抜いて渡り合おうとするが、そこに頼光が割って入り羅生門に禁札を
立てるよう綱に命じる。綱が羅生門に禁札を立て帰途に着くが、鬼の妖術で髪を引かれるので引き返す。
鬼は門の上から手 を伸ばし綱の兜を奪う。こうして綱と鬼との一騎討ちとなるが、
綱はついに鬼の片腕を切り落とし 鬼は逃げサル。網は鬼の腕を持って意気揚々引き上げる。
登場人物:牛若丸・弁慶・太刀持・斬られ(二人)
牛若丸は五条の橋のたもとで笛を吹き立ち去る。
弁慶は供を従え 五條天神にお参りにやって来る。
牛若丸が通行人を斬り捨てている ところへ弁慶が通りかかり大刀打ちとなる。
牛若丸に薙刀を打ち落 とされた弁慶は力つき降伏する。牛若丸は弁慶を従え立ち去る。
登場人物:義経・弁慶・静御前・水夫・知盛
義経は弁慶と水夫を従えて船出を思案している。
弁慶は船出を勧めるが 義経は静との離別を惜しみ杯をかわす。
弁慶は船出の用意を水夫に言い渡し 義経に出向を促す。 仕方なく義経は船に向かうが静が離れない。
見かねた 弁慶が 無理やり引き離し、出航する。
しばらくして、壇ノ浦の合戦で破れた知盛の亡霊が現れ襲いかかる。
義経は太刀をかまえてわたりあう。弁慶は数珠を繰り念仏をとなえ、その 念力で知盛の亡霊は海中へと消え去る。
登場人物:維茂・供・鬼女(最初は美女の姿)・腰元・地蔵尊
美女と腰元が山中で菊見の宴をしている。
一方、維茂と供が猿狩りを している。美女は維茂に再三酒(毒酒)を勧めて飲ますことに成功す る。
維茂か寝込んだ隙に武器を奪って逃げ去る。寝ている維茂のもとに 地蔵尊が現れ太刀を与え、
武運を祈祷して消え去る。目を覚ました維茂は、与えられた太刀を身につけ地蔵尊に感謝して鬼女を追う。
維茂は鬼女を倒し堂々と首を上産に引き上げる。
登場人物:十郎・五郎・鬼王・団三郎・古屋五郎・公郷・侍・御所五郎丸
十郎、五郎は郎党の鬼王、団三郎を呼び、親の仇討ちにでかけると伝える。
鬼王、団三郎も同行すると言うが無理矢理返すと、途中で刺し違えようとするので、
呼び戻し杯をかわし形見を渡して立ち去らせた後、十郎、五郎は仇討ちに出る。
仇の館では、慌てた公家が太刀と火吹き竹を間違えて持ち現われ、侍に脅かされ慌てて立ち去る。
五郎が古屋五郎を討ち一息ついていると、御所五郎丸が変装して現れ五郎を幻惑する。
惑わされた五郎は縄を打たれ捕らえられてしまう。
登場人物:百萬・旅僧・門僧・十萬
大勢の大衆が踊っているところへ、旅の僧が十萬を連れて母を探しにやってくる。
面白いものを見せたいと相談された門僧は、踊り狂う狂女を見せようとする。
十萬はその様子を見て、狂女が母親ではないかと思い、旅の僧に相談するが・・・。
『百萬』の舞台は嵯峨清凉寺であり、嵯峨大念佛会の創始者として嵯峨大念佛縁起に伝えられる
円覚上人の母が百萬の原型だともされています。
登場人物:牛若丸・熊坂長範・家来・通行人
熊坂長範は、家来を従え通行人を襲う。通行人が無くなると家来に夜盗に向かわせる。
家来たちは牛若丸と遭遇し次々と倒される。長範は後から続き家来の様子に気づいて介抱するが、
介抱の手だてがないので手にかける。
長範と牛若丸が遭遇し,太刀廻りとなるが、長範は両腕を斬られ逃げ帰る
登場人物:旦那・供・盗人
旦那と供が花を眺め、花を切って帰ろうとするが、切った花を泥棒にとられてしまう。
返してもらおうと、いろいろ手だてを尽くすが、すべて取られてしまう。
旦那が考えて、 供に縄をなわせ、自分が泥棒を捕まえる。
供は縄で泥棒を括ろうとするが、間違って旦那 を括り泥棒を逃がしてしまう。
旦那が怒って、横槌を振り上げ供を追い立てて退場する。
登場人物:茶屋女・旦那・供・母親・娘
茶屋女が店を開ける。母親と娘が愛宕神社のお参りを済ませ、茶屋に立ち寄る。
旦那と供はお参りをし、茶屋で、お茶を飲んでかわらけを投げて楽しみ、
帰りがけに樒を買って帰ろうとするが、母親と娘に気づき娘を見初める。
供は旦那に命ぜられ、母親に交際の承諾を得る。
供は旦那と娘を引き合わせ、母親と立ち去る。 旦那は娘の顔を見て驚き、退く。
怒った娘は泣きながら旦那を追い立てる。
登場人物:釈迦・寺侍・坊主・母親・娘
坊主と寺侍はお釈迦様を本堂に据え、守りをする。美しい母親とお多福の娘がお釈迦様を拝みに来る。
母親がお参りすると、うれしそうに「ガッテン、ガッテン」と動く。
次に娘がお参りすると、お釈迦様は後ろを向いてしまう。
坊主と寺侍は思案のすえ母親に向きを変えてもらうように頼んだが、釈迦と母親は肩を組み帰ってしまう。
びっくりした坊主はとっさに自分がお釈迦様になりすます。寺侍が帰ってお釈迦様をお参りすると裏返る。
娘に頼み向きを 変えてもらおうとするが、お釈迦様(坊主)と娘は肩を組み帰ってしまう。
寺侍も釈迦の代役となるが、誰もお参りが ないので、しかたなく帰ってしまう。
登場人物:旦那・茶屋女・茶屋男・泥棒・見廻り
茶屋女と茶屋男が開店の準備をする、料理の山芋をおろし金で擦る。
そこに旦那がやってくる。旦那と茶屋女は酒を酌み交わすうちに酒が なくなり、
茶屋の女は茶屋男に戸締りをさせて酒を買いに行かせる。
見廻りが夜廻りをして帰る路に、泥棒が待ち伏せていて見廻りを殺す。
泥棒は店に入り刀や着物を盗み出した。そこへ、酒を買いに行って いた店員が帰ってる。
泥棒が居るので驚くが、気持ちを整えて格闘をして、泥棒を降参させて、旦那と茶屋女をおこし逃がした。
登場人物:旦那・供・坊主・女(大黒)
坊主と女が相合い傘で子供を抱いて帰ってくる。
旦那と供は、お釈迦様を拝みにやって来る。供が坊主に頼んでお釈迦様を拝むが、扉越しで物足りない。
それで開帳するよう頼む。
少ししか開かないのでおかしい、中に大黒がいると旦那が気づき、不届きな坊主を括るように供に命じ、
開帳と同時に身ぐるみはいで括り、寺を追い出す。
登場人物:地蔵尊・餓鬼三匹・閻魔大王・黒鬼・黄鬼・赤鬼
ここは地獄。黄鬼と赤鬼がやってくる。黄鬼は赤鬼に命じて黒鬼を呼びにやらせる。
黒鬼がやってくる。黒鬼は赤鬼に命じて閻魔大王を呼びにやらせる。閻魔がやってきて、鬼三匹と帰り始める。
その道すがら、餓鬼三匹を連れた地蔵尊と出くわす。
閻魔は赤鬼に命じて、餓鬼と1対1で角力(すもう)をとろうと地蔵に言いに行かせる。
地蔵はその申し出を断るが、閻魔はさらに赤鬼に、もしも角力をしないなら引き裂いて食ってしまうぞと
言いにやらせる。地蔵は承諾して餓鬼を鬼のところに行かせるが、みなひとたまりもなく吹っ飛ばされてしまう。
あらためて角力になるが、こんどは地蔵の法力の助けで餓鬼どもはみな鬼に勝つ。
閻魔はそこで、自分と餓鬼と1対3で角力をとろうと赤鬼に言いに行かせる。今度は閻魔の勝利。
最後に地蔵が閻魔と角力をとり、閻魔を倒す。全員で「明年じゃ、豊年じゃ」と声高々唱え踊りながら去っていく。
登場人物:親猿・子猿・親蟹・子蟹・臼・栗・鋏
親猿と子猿が登場。次いで、親蟹と子蟹がやって来て柿を取ろうとするがなかなか取れない。
親猿に親蟹が柿をもらおうと頼むが渋柿を投げつけられ親蟹が死んでしまう。
悲しんだ子蟹は仇討ちを決意する。
子蟹は身支度をし、鋏、栗、臼に、腰につけたキビダンゴを半分づつ与え三人を供として山に入る。
子蟹は鋏、栗、臼を布陣し猿を追い出して親の仇討ちをはたしひきあげる。
登場人物:旦那・供・母親・三姉妹
舞台は大原の里。花見にやってきた旦那と供は、そこで母親と大原女である三人娘の一行に出会います。
(大原女は、頭に薪や柴を乗せて、京の町へ行商に出かけた大原の働く女性のことです。)
三人娘と一緒に酒盛りをしたいと思った旦那は、供に命じて母親に話をつけさせます。
そうして一緒に酒を飲み、盛り上がっていく中、 酔った供が踊り始めます。
あまりにも下手だったため、母親は三人娘に踊りを披露させました。
旦那は、手を叩いて見ていましたが、そのうち浮かれて踊り出し、どさくさにまぎれて娘のひとりの手を取って
連れて行こうとしました。それをみた母親は大激怒。考えた末、娘と入れ代わって、旦那の求めに応じることにしました。
母親になりすました娘と供は、先に退場。残った旦那は何も知らずにワクワクしながら娘の顔をのぞき込むと、
そこにはお多福顔の母親が。旦那はびっくりし、きりきり舞いして逃げ帰ります。
狂言堂は清凉寺境内の西北にあります